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Selfishly

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Family's start act1 「出会い」

Family's start

act1 「出会い」

歴史・実績・権威とも第1のNRI(国立研究所)と言えば
この国で、文字が読め・言葉が話せるようになれば
誰でも知っていると言われるだけ有名な国家機関だ。

国からの莫大な予算と、
NRIに協力を仰ぎたい企業が連なって協賛を申し出てくる為、
潤沢な資金源と最新の情報が溢れかえり
最新の物も情報も、全てはNRIから生まれるとまで言われている。

研究内容は多岐に渡り、
市井の人々の些細な日常の事から、国単位の開発。
薬学から、生態学に渡る医療関係。
遺伝子から、果ては 美容まで、
ありとあらゆる開発と研究が生まれている。

研究所は国土に多数あり、
セントラルにある総督府と呼ばれる本社を筆頭に
東西南北の4つの支社が、それぞれの地区の研究所を管理・統括している。

NRIに勤務している者達は、国から選ばれた能力に秀でた人物達で
エリート中のエリートである。
小さな研究所に所属できるだけでも、難関な中
更に 統括の支社や総督府の本社に所属を持てると言う者は
ほんの一握りの人間達だけである。

TOPに君臨するガバナー・ジェネラルの威光は絶大であり、
NRIの唯一無二の存在だ。
そのガバナー・ジェネラルを支えて四方を統括している
ジェネラル・マネージャー4人とが、ほぼ NRIを
動かしていると言っても過言ではない。
縁故や縁戚では通じない、完全なる能力主義を樹立し
歴史の中で、巨大な組織を造り上げてきた。


が、人だ造り上げてきたものに完璧なものは無く、
人が動かす限り、人の思惑も絡んでくると言うのが
社会でもある。

自分の地位の向上と確立に、毎日 奔走するのは
どこの世にでも存在する。
小さな失態が、降格・左遷、下手をすると除籍にも繋がる競争社会で
生き残るには、秀でた能力と、卓越した社交術、そして
それを勝ち取る強靭な心身を持ち続けなくてはいけない。
年に1度行われる査定評価で、成果・実績を示せなかった研究所や
人員は、簡単に 取って替わられる。

現在、NRIの東方支社を預かっているのは 若干29歳の若さで
入所数年で、そこまでの地位を築き上げた異例中の異例な人材だ。
明晰な頭脳と、本人の資質によるところの多い社交術、
そして、前職場で叩き込まれた処世術をフルに活動し
短期間で、東方を預かるジェネラル・マネージャーとして伸し上がってきた。

前途洋洋、向かうとこ敵なしに思われる彼にも
どうしても逆らえない者もある。

激務をこなしているジェネラル・マネージャーのロイを
電話1本で、遠く離れている東方から 総督府まで
呼び寄せる事のできる人物。

年齢を感じさせない風貌に、柔和な物腰。
普段は 温和な瞳を見せているが、
いざとなれば 猛禽を感じさせる眼光に切り替わる。
総督府の中でも、例外に長い任期を継続している
ブラッドレイ総督が、穏やかに語りだした話が
ロイを苦境に追い詰めている。




「と言うわけでね、マスタング君。
 
 君、子供を一人預かって貰えるかな?」

ニコニコと、まるで天気の話でもしているように語られた言葉は
さすがのロイも返答に詰まる。

「し、しかし
 お話を伺う限り、優秀な子供さんでいらっしゃるようですから
 私のような者にお預けになるよりも
 ちゃんとした教育の場か、専門の者をお付けになられた方が
 宜しいのではないでしょうか?」


控えめに、しかし 何とか回避できる方法を検討しながら
口に出してみる。


「ああ。
 最初は 私も そう考えてね。

 それなりの学校や、教師を付けてみたのだが
 どうも、それでは不満足らしくてね。

 『それなら、自分で探し出す。』とまで言う始末で。
  
 まだまだ、年端もいかない子供を世間に放り出すわけにも
 いかないだろう?

 で、取り合えず 望む環境を整えるから
 少し、待ちなさいと言って留めているのだが、
 なかなか、克己心旺盛な子供だから
 そうそう、待ってくれそうもなくてね。

 そこで、君の事を思いついたんだよ。

 君なら、博識な上、自身も研究者の第1人者だ。
 人脈も、人望も厚い 東方のジェネラルの評判は
 私も、いつも 嬉しく聞いているよ。」

真意を伺わせない微笑を向けられての褒め言葉に
ロイは、心中複雑ながら 頭を下げるしかない。

「はっ。」


「そこでだね、君に預かって貰うのが適任だと思って
 こうして、頼んでいるわけだ。

 なに、別に唯とは言わんよ。

 今後の事も考えて、色々と東方も費用がかさむだろうから
 年間費用の予算枠を1割ほど上げておこう。
 それと別途に、エドワードにかかる経費や費用が発生したら
 全て 私のほうで面倒をみる。

 もちろん、君にも扶養者手当ても付けておくので
 何も心配することは無い。」

ロイは、総督の言葉に 思わず身に付けているポーカーフェイスが
剥がれ落ちそうになる。

『予算の1割だと?』

莫大な資金を生み出すIRNの国家予算自体が
国の運営予算を遥かに上回る金額になる。

支社にも 当然ながら、湯水のように使っても
尚余りある予算が毎年組まれていると言うのに
更に、その1割を増やし、更に 特別枠まで組まれるとは・・・。

一体、その少年の為に どれだけの膨大な金額が
動かされるのだろうかと思うと、空恐ろしい。

『それだけの厄介児と言うわけだ。』

上手い話には裏がある。
法外な良条件に、ホイホイと喜ぶほどロイの人生は甘くなかった。
が、どちらにしても これは決定事項なのだ。

多分、ここで話されている間・・・もしかしたらそれまでに
全て手続きは終わっているのだろう。

そう考えると、心中で 深く・重いため息を1つ付いて
姿勢を正して返事を告げる。

「了解いたしました。
 若輩な身ですので、どこまでご期待に沿えるかは
 わかりませんが、お預かりさせて頂きます。」

ロイの苦渋の決断などお見通しだろうが、
総督は そんな些細な事は歯牙にも気にする様子も無く
嬉しそうに頷いている。

「うむ、頼む。」

当たり前そうに受け取る姿勢が癪に障り、
少々、反抗心が頭をもたげてくる。

「が、しかし 私のところは ご存知のように
 独り者ですから、少年の成長期に十分な環境を整えるには
 不適だと思われます。」

要するに、面倒は見れないと言っているのだが、
ロイの伝えたい事はわかっているのだろうが、
総督は あっさりと、

「いや、それは全く気にする事はないよ。

 エドワードは、本当に 良く出来た子供でね。
 大概な事は自分で全て行える。
 
 君も忙しい身では何かと不自由だろうから
 彼に面倒を見てもらうといい。」

と、ロイの笑顔が引き攣るような事をツラツラと返される。

『それではまるで、引き取るのではなくて
 私が養われるようじゃないか!』

内心は、不愉快で憤慨の言葉を吐き続けるが
表面上は、当たり障りなく それは、有難いことですと伝えるだけに留まる。

伝えるのは終わったとばかりに立ち上がり、
内線で秘書を呼び出す。

「では、早速だが 今日から頼もうかな。
 実は、エドワードを待たせているのでね、
 秘書に案内させるから連れて行ってくれたまえ。」

その言葉に、さすがの忍耐強いロイの自制心も箍が外れる。

「今日!」

驚愕の表情を浮かべるロイに、
逆に落ち着きを払った態度で繰り返す。

「そう、今日から頼むよ。
 
 あまり待たせて機嫌を損ねると困るんで、
 急いでくれ給え。」

ロイの事など、眼中にない言いように
さすがのロイも、ムッとした態度を改められない。

「ああ、言い忘れていたが
 君への報償なんだがね。

 手当てとは別に、もし 彼を上手く育てる事ができたなら
 君に権限を譲渡しよう。
 彼なら、さぞかし優秀な部下になるだろうからね。」

さらに追い討ちをかけるような言葉に
ロイの怒りは最高に達する。
思い余って、言葉を吐きそうになる瞬間に
控えめなノックの音が響く。

ロイは 拳を握り締める事で怒りを我慢し、
足音高く部屋を出るために
開けられた扉の方に歩を早める。
そんなロイの背中に、独り言のように言葉が届いてくる。


「君は きっと感謝する事になると思うよ。
 それに彼は、君の同類だ。」

届いた言葉に、怒りを乗せた表情で振り向くが
総督は、もう 出て行くロイには気にせずに
自分の仕事へと戻っていた。



怒りは収まらず、苛々とした態度で秘書の後を着いていく。
長くはない道のりを歩く間にも
ロイは、あくまでも心中の中で 渦巻く罵詈雑言を吐き出し
続けていた。

『全く、馬鹿にするにも大概にして貰いたいものだ!
 何が 感謝する事になるだ。

 自分で面倒を見れない厄介児を押し付けておいて
 何様な態度だ!

 しかも、将来の部下だと? 譲渡だと?
 思い上がりも、甚だしい!

 たかが、少し頭の良い、クソ生意気なガキじゃないか。
 熨斗を付けて返してやる!』

要は、その子供が ロイと過ごすのが嫌だとごねれば
また、総督も違う人選を探すだけだろう。
甘やかされ続けて、驕り高ぶったガキなど
ちょっと、厳しくすれば 癇癪を起こして出て行くに違いない。
段々と落ち着いて、そんな考えが浮かんでくると
最悪だった気分も、やや上向きになってくる。

『まぁ、少しの間の辛抱だ。
 これで、総督に恩が売れると思えば
 まぁ・・・、安いのだろうな。』


忌々しいとは思うが、これも宮仕えの義務の1つとあきらめる。

そんな風に考えている時に、前を歩く秘書が
1つの扉の前で歩みを止める。

「こちらに、エドワード様が居られます。

 私は入れませんので、ここからは
 お一人でお進み頂けますか?

 お会いになられたら、そのままお帰りになって
 良いとのお言葉です。」

それだけを告げると、秘書は軽く礼をしたまま
さっさと踵を返して、来た道を戻っていく。

プロポーションの良い肢体が、姿勢正しく去っていくのを見ると
何とはなしに、自分の秘書を思い浮かべる。

『どうにも優秀過ぎる女性は、
 愛想が無さ過ぎていけないな。』

そんな埒も無い事を考えながら、目の前の扉に目を向け
思わず眉を顰める。

プライベートと書かれているプレートの言葉どうり
ここは、総督の府内の部屋だ。
部屋と言っても、1つだけの会議室のような味気ないものではなく
何部屋もある、そこそこの1軒家程の敷地がある。
ロイは、深いため息を吐き出しながら
重厚な扉のノブを手で回す。

鍵はかかっていないようで、そのまま中に入ると
そこは玄関の役割を果たしているようだ。

小さなホールの向こうには無数の扉へと続く廊下があり、
ロイは 贅沢さに呆れながらも、
お目当ての人物を発見するために進んでいく。

入った時から、ここには人の気配が皆無だ。
まさか、昼からぐうたらと寝ているような人物なのか?と
更に嫌悪感を募らせながら、1つ1つの部屋を覗いていく。

キッチンにも、リビングにも居らず、
待ちくたびれて逃げ出したのかと淡い期待をえがきながら
1番奥まった書斎とプレートのある扉を逡巡の末
ソッと開いてみる。

他の共有スペースと違い、総督の公私共の情報が詰まっているだろう
書斎には さすがに入るのが躊躇われたが、
探していない部屋は、ここしか残っていない。

そっと覗き込んで伺うと、思ったより広いスペースに驚かされる。
入り口からだけでは見渡せない作りになっており、
所狭しと並べられている書棚が、視界を塞いでいる。

奥に進むと、立派なデスクが鎮座しているのが見えたが
そこにもお目当ての人物は居なかった。

『どうやら、取り越し苦労になりそうだな。』

相手が、ロイを待つことなしに逃げ出したようなのを察すると
ロイは 安堵でほくそえみながら、部屋を出るために
身体を反転させる。

とその時、カサリと本を捲る音が聞こえる。

まさかの思いに、その音のした奥のほうに進むと
交互に知多並ぶ書棚の奥は高い天窓が僅かな光を取り入れて
周囲を薄暗く照らしている。

その下に、1枚の肖像画が飾られていた。

肖像画と、ロイが本気で見間違うほど
その人物は、無機物だけが存在する世界に溶け込んでいた。
天窓からの光では足りないのだろう、
小さなアンティークのランプで手元を照らし、
低めの飾り棚に腰をかけて、一心不乱に目の前の本に集中している。
俯いた頭からは 顔は見えないが、弱い光量にも関わらず
光を放つ美しい金糸が目に入る。

しばらく、茫然と その光景に目を奪われていたが
ページを繰る動きが、それが肖像画などではなく
どうやら、探していた人物らしい事に思いが及ぶ。

「エドワード君?」

脅かさないように控えめな声で名を呼んでみる。
ロイには、何故 自分が、そんな配慮に至れるのかが
わからなかった。
これから、莫大に迷惑をかけられるだろう相手に
そんな些細な心配りなど無用ではないかと思う反面、
何故だか、その光景には 人が触れてはならない静謐な気配が
感じられ、知らず知らずの内に呑まれている。

控えめな声は相手に届かなかったのだろうか、
全く反応を返さない人物に、再度 大き目の声で呼びかける。

「君がエドワード君かな?」

近寄りながらかけた声は、絶対に相手に届くはずだ。
なのに、その人物は 意識を全く逸らす事無く
自分の行動に没頭している。

「エドワード君!」

無視されたとわかると、意地になって声をはりあげて呼びかける。

その後の数度に渡る呼びかけを試みても
俄然、相手の態度に変化がないとわかると、
さすがにロイも、そこには悪意しか感じられなくなる。

「エドワード!
 いい加減にしないか!

 人が呼んでいるなら、
 返事くらい返すのが常識だろう!」

そう声を張り上げると、
相手が手に持っていた本を奪い取る。

目の前から忽然と姿を消した本の在り処を探すように
俯けられていた顔があがり、彷徨うように瞳が
あたりを伺う。

相手が顔を上げると、瞬間 ロイは声を喪った。

『金髪金瞳・・・。』

滅多にお目にかかれないような色の取り合わせに
それ以上に、その容姿にも驚かされる。
白皙の面には、大き目の宝石をはめ込んだような瞳、
すんなりと方の良い鼻梁と、小ぶりながらポッテリとした厚みを持つ
紅見の鮮やかな唇。

1つ1つのパーツも見事ながら、
その配置も、絶妙な神業を感じさせる出来栄えだ。

綺麗な人間など見慣れているロイでも、
思わず凝視してしまう程、整ってる容姿を持つ子供だ。

彷徨うように動いていた視点が、ロイの手にある本で
ヒタリと留まると、金瞳が 驚くほど鮮やかに色を変えていく。

その瞳の変化に、ロイは 我を忘れて見惚れてしまう。

淡い色彩を放っていた虹彩は、きついほど引き締められて
眼光を強くしていく。
その瞳には、強い意志が漲っており、見るものを圧倒させる力を
生み出している。

ロイは、思わず後じさりしそうになった自分を叱咤すると
常の自分を立て直しながら、相手に確認をする。

「君がエドワード君か?」

「そう。」と呟くと、少年は 少々 がさつに大き目の伸びをする。

よいしょとばかりに立ち上がると、
ロイの眼を正面から見返してくる。

「あんたが、貧乏くじ引いた部下なわけ?」

少年の言葉に、思わず怒鳴り返しそうになったが、
少年の表情を見ると、ストンと肩の力が抜ける。

皮肉でも、嘲笑でもない
彼は 本当に、本心 そう思っているようだ。
済まなさそうな態度は見せないが、相手に対する深い同情を
寄せているのはわかる。

『この子供は・・・。』

歳に見合わない人の機微にも事情にも配慮を回すだけの
頭と心があるらしい。

ロイは、先ほどまでの敵愾心が薄れていくのを感じながら
愛想良くとまではいかないが、自然に返事を返してやる。

「まぁ、そう言う事になるかな。

 ロイ・マスタングだ。」

そう言って右手を差し出す。
一回り以上違う子供に、対等な者同士がするような握手を求めるのも
どうかとは思ったが、この目の前の少年には
何故だか、これがふさわしい気がした。

差し出された手を戸惑いを浮かべた表情で眺め、
逡巡する様子に、ロイの方が躊躇いを浮かべる。

ロイが差し出した手をどうするかと考えあぐねていると
意を決したように、手から視線を離して
エドワードが 出された手を握り返す。

途端、ロイの表情が曇る。

「あっ、ごめん。
 痛かったか?

 俺、右手と左足は 機械鎧なもんで
 あんまり、人とは握手しないようにしてんだ。」

申し訳なさそうに語られた言葉に、ロイが さらに驚く。

「機械鎧・・・、
 右手、左足も?」

思わず、まじまじと エドワードを観察してしまう。
機械鎧は 確かに一般でも使用はされているが、
手術事態も 相当の苦痛と負担を負うし、
さらに 使いこなせるまでのリハビリも半端じゃないと聞く。
だから、殆どが 義手や義足で補っていて
機械鎧にするものは、余程の事情がある者達だけだ。

だが、目の前のエドワードの動作には全く不自然なところが無く
自然に流れている。
と言う事は、相当の年月をかけて使いこなしてきたと言う事になるが・・・。

「・・・君は、そんな幼少の頃に
 機械鎧を取り付けたのか?」

思わず、まさかと言う気持ちを隠せずに訊ねてしまう。

「あんだとー!
 それは、俺が 今でもおしめつけた赤ん坊位の
 サイズが無いガキだと言いたいのか~!!」

急に暴発するように飛び上がって喚くエドワードに
ロイは、目の前の人物を信じがたい気分で眺める。

『先ほどまでの人間と、これが同じ人物とは・・・。』

なにやら騙されて、損をさせられた気分になる。
ギャーギャーと喚いている子供に、やれやれと思いながら
取り繕う為に、無難な返事を振ってやる。

「いや、機械鎧を使いのなすには
 相当の年月がかかると聞いていたのでね。

 君が、見事に使いこなしているから
 年季がはいっているのだろうと勝手に思い込んで
 しまったんだが、違ってたら申し訳ない。」

相手を立ててやりながら、そう言ってやると
途端に機嫌を直したのか、踏ん反り返るようにして返事を返してくる。

「ふん、それは軟弱な野郎達の事だろ。

 俺は、手術を受けたのは 去年だ!」

どうだ!と得意げな姿勢を見せるエドワードの言葉に
さらに、ロイが驚かされる。

「去年?
 そんなはずはないだろう。」

疑って申し訳ないが、そんな簡単な事ではないはずだ。
そんなロイの態度は慣れているのか、
指を顔の前に立てて、チッチッチッと振って見せる。

「きょ・ね・ん。

 正確に言うと、今日で 12ヶ月と6日だ。

 嘘だと思うなら、爺さんにでも医者にでも聞いてみな。」

ロイは唖然としながら、エドワードを見直す。
豪胆な者でも泣きを見せると言う機械鎧の手術を得て
最低でも数年はかかるというリハビリを1年で終わらせた子供・・・。

どうやら、総督の言葉も満更 嘘でも無かったわけだ。

「そうか・・・、済まない疑うような言動をしてしまって。

 君は、偉かったんだな。」

思わず頭を撫でるような仕草で、そう語りかけると、
エドワードは 途端に、嫌悪感丸出しで身体を震わし
頭に置かれた手も、払い落とす。

「気色悪いこと言うんじゃねえ! んで、するな。

 俺は偉くもなければ、立派でもない。
 ただの阿呆だ。

 んでなきゃ、この歳で機械鎧が必要なわけないだろ。」

いっぱしの大人のような口を利くエドワードに
ロイは、何度目になるかわからない驚きを感じる。

強勢でも、強がりでもない、かっこをつけているのでも当然無い。
本心から語られているだろう言葉には、苦渋が滲んでいる。
そして・・・深い後悔が?

ロイは、目の前にいる 見た目とは全く違う
侮れない相手を、自分の短慮の思い込みを改める事で
マジマジと見直していく。

『存外、面白い事になるかも知れないな。』

押し付けられた、ただの厄介ごとだと
不平不満を零していたのは、つい先ほどだったのに
今では、これからの この少年と過ごすことに
楽しみを思い浮かべている。
切り替えの速さは、もともとの性分だ。
鬼が出るか、蛇が出るか
まだまだ、謎だらけな今後だが
退屈だけはしそうにないようだ。

そう考えると、自然と言葉が流れていった。

「まぁ、これから一緒に暮らすわけだ。
 宜しく頼む。」

そう言いながら、再度 右手を差し出すと。
 
そんなロイの心情が読めたのだろうか、
呆れたような表情を浮かべて、エドワードも握り返す。
その時に、「物好きな。」と小さく呟かれた言葉が
さらに、ロイを可笑しがらせたのだった。





連れ立って総督府を後にした二人は、
ロイの仕事の関係もあり、すぐさま駅に向かう。

「なに?
 戻ったら、仕事あるんだ?」

個室に腰を落ち着けた二人は、今後の話をしだしていた。

「そうだよ。

 厳しい部下に、なかなか休みが貰えなくてね。

 今日も、この後は 本日の分が待ち構えていると言うわけだ。」

「はぁ~、NRIの人使いの荒さは並じゃないもんなぁ~。

 あんたも、良くあんなとこに勤めていられるよな。」

しみじみと語られる言葉に、ロイは おやっと思い
伺ってみる。

「君は、NRIに入りたいんじゃないのかい?」

総督の言い方だと、将来の社員候補なのだろうと
思ったのだが・・・。


「ま~さか!

 あ~んな仕事、仕事なとこに入りたいわけないだろ。

 俺は、もっとゆっくりと過ごすのが趣味なんだよ。」

歳の割には、地味な人生設計があるようだ。
それとも、近頃の子供は 皆、こんな観念を持っているのだろうか。

「で、爺さんから どこまで聞いたんだ?」

エドワードの問いかけに、ロイは思わずと言ったように聞き返す。

「君・・、その爺さんとは まさか、総督の事じゃあ。」

「そうだぜ。
 血は繋がってないけど、俺の曾祖父にあたるはずだぜ。」

あっけらかんと語られるにしては、
重大な発言だ。

「それは、君も ブラッドレイの一族と言う訳か?」

そうなれば、扱い方にも要注意が必要だし
預かるのも、慎重にしなければならない。

「うんにゃ、俺は あっちとは関係ない。
 何か、家を飛び出した息子の嫁の連れ子の結婚相手が
 俺の親父になるわけらしい。

 っても、俺も聞かされたのは つい最近でさ。
 暮らしたのも1週間もなかったから、
 あんま、実感わかないんだけどな。」

NRIのTOPを親族に持つと言うのに無関心でいられる人間がいるのには
素直に驚いた。
一言頼めば、この世の大概な事は叶うと思われる曾祖父の力を
知らないわけではなさそうだから、
本当に興味がないのだろう。

「なら、何故 今更、彼に逢ったりしたのかな?」

無関係を主張するなら、逢う必要も、関係を持つ必要も無かったはずだ。
天涯孤独になったとは聞いているが、
父親か母親の親族がいるだろうに。

「う~ん・・・、まぁ それにはそれで
 ちょっと、理由があってさ。

 まぁ、おいおいと話すことにする。
 今、一編に話しても あんたも困るだろうし、
 聞かずに あんたの気が済むようなら
 聞かないほうが、これ以上の厄介ごとを抱えずに済むしな。

 まぁ、俺は 面倒をみてもらうわけだから、
 あんたが話せって言うなら、言わないわけにはいかねえから、
 そのうち、あんたが決めてくれたらいいぜ。」

歳の割には、妙に人生を悟ったような物言いをするエドワードに
ロイは 面食らったように、相手を見る。

「まぁ、あんたには マジ悪いとは思ってんだぜ。

 本当は、爺さんのとこで何とか出来れば良かったんだけど
 俺の知りたい事を学ばせてくれるとこも、人もいなくてさ。

 誰か、そっち方面で 人を紹介してくれって言ったら
 爺さんが、丁度 部下に適任者がいるって事になったんだけど、
 なるべく早く習得するからさ、少しの間 辛抱してくれよな。」

人にものを頼むにしては、少々 尊大な物言いだが
本人にしては、これが最大な譲歩な態度なのだろう。
それにおかしな事に、この少年の こんな口調も
彼にはあっていて、別段 不快に感じさせないから不思議だ。

違和感という意味では、彼の容姿と性格が
見事に違っている方が、気になる位だ。

「学ぶとは?
 一体、君が 学ぼうとしている事とは何なんだね?」

総督の権力を持ってしてなら、例え 国立の教授であろうとも
著名な学者であろうが、家庭教師にでも何でも
呼び寄せる事等、造作もないはずだ。

そう考えながら、相手に聞いてみると。
エドワードが 驚いたような表情で、ロイを見返してくる。

「エドワード?」

何故、エドワードが そんなに驚いているのかがわからず
問いかけの思いを込めて、名前を呼んでみる。

「・・・なんだよ、爺さん。
 1番、肝心な事を伝えてなかったのかよ。」

はぁ~とため息を吐きながら、
額に手をあてている。
そのままの姿勢で、しばらく逡巡していたが
顔を上げると、周りをキョロキョロと見回し、
テーブルに置いてある、重厚な造りの灰皿を手に取ると
思い切りテーブルにぶつける。

「エドワード!」

エドワードの行動に、驚いた声を上げるロイに
まぁ、見てろとジェスチャーで示すと
両手を合わせて、粉砕された灰皿にかざす。

すると、ロイには馴染みある光が溢れ出し
光が消えた後には、元のまま ひび割れ1つない灰皿が
エドワードの手に持たれていた。

その時、ふいに 総督の部屋を出るときに聞こえた言葉を思い出す。

総督は 言ってなかったか?

『同類だ』と・・・。

ロイは、まじまじと目の前に立つ小さな人物を
改めて眺めるのだった。



 



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